2024.2.22 みすず野
きょうは「猫の日」。2月22日で2・2・2(にゃん・にゃん・にゃん)だそうだ。松本市和田出身の歌人・窪田空穂(1877~1967)は、明治41(1908)年「猫」と題した短い随筆を発表した。夏、郷里から来たおいを連れて、夜の縁日に出かける◆雑踏で足元に「一かたまりの白い物が、地から湧出たやうに現れた。其物は、暗く、灯影の達かない地の上を、さながら影の動くがやう、脚と脚との間を縫って動く。眼を凝すと子猫! 生れて、程も無いと思はれる、雪のような毛をした、愛らしい猫であった」(『猫の文学館Ⅰ』和田博文編、ちくま文庫)◆誰か踏みはしないかと心配していると、一人の娘が「あら!」という優しい声をたてて駆けだし「さも大事さうに両手でつと胸の所へ抱きかかへ、顔と顔と触れるやうにして」から雑踏に紛れた。空穂とおいは思わず微笑する◆「―或思が微かに胸に湧いて来て、そして何と言ふべきものか、言葉にするのを知らなかったのである」と結ぶ。猫を拾っていった娘、それを見守る空穂とおい。わずか2ページの作品だが、猫の毛のような、ふわふわとした心地よい読後感に包まれる。