連載・特集

2024.1.8 みすず野

 今年の干支は辰。辰年生まれの男の子には、「龍」にちなんだ名前を付けることが多いようだ。作家の名前をみると、このことが実証されているようでもある。明治以降の辰年生まれで、名前に龍の字が付く作家を挙げてみる◆明治25(1892)年生まれが芥川龍之介、37年が永井龍男。辰の字だが堀辰雄もいる。昭和3(1928)年は澁澤龍彦(本名・龍雄)、27年が村上龍(同・龍之助)さんと続く。このことは澁澤本人がどこかに書いていた記憶がある◆「去年、龍が死んだ」と、フランス文学者・奥本大三郎さんは、澁澤について昭和63年に書いた(『干支セトラ、etc.』岩波新書)。「氏自身、自分の干支と名に引っ掛けて、『ドラコニア綺譚集』などと、好んでドラゴン、龍の字を用いたけれど、そのお人柄は、悪魔=ドラゴンとはほど遠いもの」だったという◆会って話をすると、清らかな水に洗われたようだったと振り返る。「澁澤邸を辞して帰るときの気持ちは、信心する者が石清水八幡宮にでも詣でた帰り道のようであった。あの気分のよさを私は今も忘れることができないのである」と書く筆致がすがすがしい。