連載・特集

2024.1.24みすず野

 年末に古書店で買い求めた1冊を、読むともなくぱらぱらページを繰っていたら、1枚の一筆箋のような紙片が挟まっているのを見つけた。著者が発刊時に、親しい人などに献呈する慣習で贈った際に添えたのだろう。古書店で入手した本では、そんなに珍しいことではない◆驚いたのは、著者がよく知られた地元の人で、受け取った側も、個人的に親しかった人。この人は既に亡くなっている。作家や大学教授らが亡くなると、遺族が蔵書を処分してまとまった本が市場に出ることがある。本を受け取った人は、大量の蔵書があったと聞いている。同じような経緯で店頭にあったのかもしれない◆本人には大切な1冊1冊でも、家族には場所ふさぎに過ぎないことだって当然だがある。「蔵書一代」とはよくいったものだと思う。ただ、こうして本を手にすると、不思議な思いにとらわれる◆大手の出版社から発刊されたこの本は著者の数ある著書の1冊。受け取った人は読後、どのような感想を持っただろうか。読了したのだろうか。さまざまな思いが行き来する。本は必要とする読み手の書棚に収まった。きっと喜んでいると思いたい。