連載・特集

2024.1.17 みすず野

 寒中のしんしんと冷える夜、好みの酒を手に味わうひとときは何ものにも代え難いという人が多いと推測する。肴はささやかなもので十分。当地には野沢菜をはじめうまい漬物も多い◆作家・檀一雄は「わが身辺に低廉の佳肴あり」と題した文章で「酒のサカナという奴ほどうれしいものはない。これは、まったく、酒飲みにだけ与えられた天の恩恵のようなもので、飲む人は、飲まない人より、神の加護が多いなどと、まことに酒飲みの冥利に尽きるではないか」と書く(『日本の名随筆・肴』作品社)◆さらに「酒のサカナは、あらゆる料理の粋のようなもので、下戸の不しあわせは、これらの粋を味わうことを、神様から見はなされているようなものだ」と続ける。これに対して、同書で俳優・三國一朗は「トマト」という短い作品で「酒の肴ふうの副食物を好む人はむしろ下戸に多いというのが通説」と語っている◆檀が紹介している肴は、塩鮭の頭やタラの白子、鶏の手羽先など、安価で入手できる材料を使って簡単にできるという。口に入らなくても、このような作品を40編ほど収めた同書のような1冊こそ、何より上等な肴になる。