連載・特集

2024.1.1 みすず野

 正月三が日は、神社が初詣の人たちでにぎわう。大勢が詰めかけると、列になって参拝する順番を待つ。さい銭箱が設けられている位置まで近づくと、いくばくかのさい銭を投げ入れる。これはおかしな行為ではないか◆ずっと疑問に思っていたのは、崇拝する神様に願い事をするのに、神様に向かって小銭を投げ入れる。こんな無礼な方式がなぜまかり通るのか。神様はどうしてこんな振る舞いを許しているのか。『民俗学がわかる事典』(新谷尚紀編著、角川ソフィア文庫)に、その答えが記されていた◆貨幣が民俗の中でどのような役割を果たしているかを調べると、それは人々の厄災や罪汚れを吸収する装置で、さい銭は災厄や罪汚れをはらえ捨てるためのもの。神社はふつうに考えると「神聖で霊験豊かな神様が鎮座している場所」だが、人の行為を観察すると、厄災や罪汚れをはらえ清める場所になっているという。だから川に近い場所にある例が少なくないと◆小銭を投げ入れ、そんなに、というほど多くのことを願い、全てかなえられるような気になって去って行く。それでも神様の怒りにふれないのはそういう理由だそうだ。