連載・特集

2023.12.8みすず野

 落語家の八代目林家正蔵は、太平洋戦争開戦の昭和16(1941)年12月8日の日記に「遂に英米に対し宣戦を布告し(略)各所に大戦果を収める。まさに、この日は、私の生涯に、日本の歴史に、記念すべき日だ。臨時ニュースにて開戦を知り驚いたのは私一人ではあるまい。寄合でも、楽屋でも、戦況でモチキリだ」(『八代目正蔵戦中日記』中公文庫)と書いた◆作家の木山捷平の同日の日記は「昼一時頃目をさましたら、近所のラジオがシンガポールとか、ホンコン爆撃とか言っている。それで戦争の始まったのを知った(略)十一時とか十一時半とかに、最初のラジオをやったそうだ」(『酔いざめ日記』講談社文芸文庫)と記す◆正蔵の日記は、開戦の高揚感に満ちている。NHKの連続テレビ小説「ブギウギ」は今週、開戦を告げるラジオ放送を聞いたり、新聞の号外を手にしたりした人々が、万歳を繰り返す街の様子を描いていた。木山の日記に高揚感はない◆正蔵は20年8月15日の日記に「玉音を拝聴してみな泣く。ポタリと音なりて涙、畳の上へ落ちたり」と書いた。空襲、2度の原爆投下。武器を持たない人も犠牲となった。

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