連載・特集

2023.12.31 みすず野

 昭和を代表する作家・松本清張さん(1909~92)が「生活は日々考えるもの、人生は折に触れて考えるもの」という言葉を生前に残したと以前、小紙の別の欄で書いたことがある。筆者の知人の書籍編集者に、生活と人生の違いを簡潔に述べるように問い、その答えとして話されたと紹介した◆じかに聞いた知人は、人生は折々だけに立ち止まって考え、進む方向が決まったら気持ちを切り替え、あれこれ迷わず前に進めという意味だと説明してくれた。あまたの名作を残した作家の簡潔明瞭な奥の深い教えに感服する◆元市民タイムス論説委員長でエッセイストの赤羽康男さん(65)が著書の文学思索紀行『本を旅する』で「何冊か再読するなか(中略)多少誇張して言うと、昭和が『清張の時代』であったと気づかされる」と指摘する。犯罪の動機はどうであれ、悪は許されるものでない信念があったとも◆大みそか。折に触れるのに、ふさわしい日ではないだろうか。暮れゆく令和5年を振り返り、良かったこと、悪かったことを踏まえて新たに迎える6年に思いを致す。除夜の鐘を遠くに聞きながらじっくり考えてみるのもいい。