連載・特集

2023.12.13 みすず野

 夏目漱石は、ブルー・ブラックやブラックというインクの色が嫌いで、いろいろな色を混ぜてセピア色のインクを作り、原稿を書いたという話を何かで読んだ。内田百閒ら門下の皆もこのまねをしたそうだ◆ノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランさんは、1961年、ニューヨークの病院に入院していたフォーク・シンガー、ウディ・ガスリーを何度も見舞った。ガスリーは彼にとって神様だった。歌うのはギターとハーモニカという同じスタイル。トム・パクストン、フィル・オクスらとともに「ウッディ・ガスリーの子どもたち」と呼ばれた◆ぐっと卑近な例で、この仕事に就いて、直接いろいろ教えてもらった先輩は取材も文章も格段に優れていた。それは駆け出しでもわかるほどだった。ときどき、記事で使われた言葉や、文章の結び方をいくつかまねた。今でもたまに使ってみる◆政治資金パーティーで得た収入の一部を、裏金化したのではないかと問題になっている自民党の国会議員たちは、尊敬する誰かのまねをしたのだろうか。伝えられる内容はどうにもみっともない。そんなことを教える先輩がいたとは思いたくないなあ。