連載・特集

2023.12.12 みすず野

 『ごぶ・ゆるね』という書名の本があるのを知り北海道の古書店から送ってもらった。昭和55(1980)年発刊の旺文社文庫で、高価な本でも何でもない。書名の意味が知りたかった。外国語を平仮名で表記したのだろうと思っていた。著者は小説家で、落語などの評論家としても活躍した安藤鶴夫◆「ごぶ・ゆるね」は、フランス文学者の友人、齋藤磯雄との往復書簡の中に出てくる。安藤からの書簡の冒頭に「ごぶ・ゆるね」と記される。ごぶさたの「ごぶ」、許してねの「ゆる」だという。外国語でも何でもない◆「ぼくは、昔から、いろいろ、作語、略語、隠語、通言のごときを、自分でつくり、ともだち同志で用い合う、一種の習性をもっていた」そうな。近年よく聞く「なるはや」の類いだった。そして友に「おやよ」と告げる。これは「お休みなさい」のおやなんだと◆意味を知って、ちょっぴりがっかりしたが、著者60歳のときの書簡で、なんとなくほのぼのする。ついでに、忘れていたことを思い出した。「あけおめ」「ことよろ」というのもあった。どうしようか。年賀状、まだ1枚も書いてないな。15日から受付だ。