連載・特集

2023.11.30 みすず野

 「本は立って読む。夜、自室の出窓に小さなライトを置き、その前に立って読む。あらかじめ時間を区切っておいて、その時間内は立ちながら読むことに沈潜する」(『野蛮な図書目録』洋泉社)というのは「狐」の筆名で、日刊ゲンダイに23年間、1188本の書評を発表した山村修さんだ。青山学院大図書館司書を務めながら連載を続けた◆立って読む理由を「集中できるから」と説明する。そういえば、書店で立ち読みしていると、内容が整然と頭に入ってくる。その本を買い求め横になって読み始めると、先ほどのようにするすると理解できないことがある◆職場で毎朝、各紙を読むのは、ほとんど立ったままだ。無意識のうちに座らずに読むようになった。山村さんが言うように、集中できるからなのかもしれない。出窓に本を置くのは、政治家が記者会見時に使っている台が欲しかったが、入手できなかったからだと。手には疲れた時用に、つえ代わりのバットを持つ◆読者の心を動かし、多くのファンを得たその書評は『もっと、狐の書評』(ちくま文庫)などに収録された。平成18(2006)年、病のため急逝。まだ56歳だった。