みすず野2023.10.30
塩尻市北小野出身で、筑摩書房を創業した古田晁は、昭和48(1973)年10月29日、会社近くの洋食店で昼食後、上野の映画館で豊科町(安曇野市豊科)出身の熊井啓監督の映画「朝やけの詩」を一人で見た。信州の美しい風景が映し出されていた◆古田は5年前に心臓動脈硬化と診断されその後、糖尿病の症状も出て禁酒と節食するよういわれ、糖尿病はかなり改善していたという。映画を見てから近くの店で酒を少し飲み「『これからは心臓に気をつけなくては』と女将にいった」(『筑摩書房 それからの四十年』永江朗著、筑摩書房)◆この後、筑摩書房の社員のたまり場になっている飲み屋に向かった。社員に「朝やけの詩」の感動を語った。さらに2軒はしごをするが、店が呼んだハイヤーに二人の社員に両脇を抱えられて乗り、自宅へ向かう。車が到着したのは30日午前0時30分ころ。そのまま意識が戻ることはなかった◆古田は会長職を退き、故郷の北小野で隠居生活をしようと、実家を改装して準備を整えていた。老夫婦二人で過ごす、静かで穏やかな日々を思い描いていたことだろう。まだ67歳だった。今年没後50年。