連載・特集

2023.10.16 みすず野

 ちょっと遅かった、花期を逸したようだ。松本民芸館(松本市里山辺)のワレモコウである。5月下旬に取材で立ち寄った折、草木に掛けられた「吾亦紅」の名札を庭で見て「花が咲く頃、また来よう」と書いた◆野で咲く場所の心当たりがない。丹精ぶりが分かる茎を頼りに先月も訪れ、その時は「まだ早い」と言われていた。失念していたことをちょっとしたきっかけで思い出す。新しい松本市立博物館を見学↓天井からつるされた松本てまり↓再興に関わったのが丸山太郎↓丸山が創設した民芸館―の連想だった◆名の由来とされる説の一つ〈吾も亦、紅〉の"ひそやかな自己主張"に心ひかれる。写真や絵で見ると―コスモスやオミナエシに比べ―なんと目立たない、控えめな姿だろう。俵万智さんは〈秋ゆえに美しき花よ吾亦紅 音符のごとき花宿らせて〉と詠んだ(『花束のように抱かれてみたく』同朋舎)◆丸山を民芸の道へといざなった柳宗悦↓柳の三男で園芸研究家の柳宗民さんは著書『雑草ノオト』(毎日新聞出版)で秋の七草を八草にしてよければ、吾亦紅を真っ先に付け加えたいと。〈我も赤いぞ〉は、また来年だ。