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上條宏之さん追悼集完成 近代郷土史研究にまい進 教え子ら70人寄稿

有志によって刊行された上條宏之さんの追悼集。昨秋行われた上條さんの最後の講演の写真(左、本紙撮影)も収められた

 近代史研究に優れた業績を残し、今年2月に急逝した松本市和田の歴史学者・上條宏之さん(享年87)の追悼集『「智徳」の人 追悼・上條宏之先生』が有志によって刊行された。高校や大学の教壇で後進を育てる傍ら、郷土の修史事業や地域史研究にまい進し、18年にわたって県短期大学長も務めるなどした故人を約70人の寄稿者が回想。多くの人々に慕われた在りし日の姿をしのんでいる。

 松本深志高校、東京教育大学(現筑波大学)を卒業後、高校教諭や信州大学教授、県短期大学長などを歴任し、県政史や県教育史、県満州開拓史、県史、松本市史をはじめとする各市町村誌など多くの歴史編さん事業に従事した上條さんをさまざまな立場の人がしのんだ。教え子、同窓、同僚、同志らが、温厚だった故人の人柄や史料に対する緻密さ厳密さ、揺るぐことのなかった探究心を振り返っている。
 「国家に対峙する民衆が新しい地平を切り開いていくという視点」を重んじ、自由民権運動や近代女性史でも研究成果を挙げた功績に触れる追悼文も数多く寄せられた。
 親交のあった有志が春先に企画。各方面の関係者に声を掛け、新盆に間に合うように刊行準備を進めたという。上條さんの著作の出版を数多く手掛け、追悼集の発起人代表を務めた龍鳳書房(長野市)の酒井春人社長(74)は「学問に対する厳しさや真実を追求する姿勢に多くを学ばせていただいた。多くの感謝とともにこの本をささげたい」と話している。
 四六判258ページで非売品。松本、長野両市や県、国会の各図書館に収められる。