連載・特集

2023.9.3 みすず野

 薄暗い部屋の中に、プロ野球の中継をしていたアナウンサーの絶叫するような声が響いた。巨人軍の王貞治選手が、ヤクルトの鈴木康二朗投手から、通算756本目のホームランを打って、米国大リーグのハンク・アーロンが持つ世界記録を塗り替えた。昭和52(1977)年のきょうのことだ◆この日に引っ越したばかりの部屋で、まだ照明器具がなく、窓から入る街灯だったか、隣家の明かりだったかを頼りに、ラジオを聞いていた。ジャイアンツファンではなかったが、この放送ははっきりと記憶する。鈴木投手は、4年前に亡くなっていたと今年報じられた◆ラジオの野球放送で、もうひとつ忘れられないのは、昭和49年の巨人軍・長嶋茂雄選手の引退試合だ。民放のアナウンサーが、セレモニーを中継しながら「長嶋が行ってしまう」と実況していたのがいまも耳に残る。テレビは持っていなかった◆起床すると、まずラジオのスイッチを入れる。時計代わりでもあるが、耳だけ預けていろいろできるのがいい。毎週決まって見るテレビ番組はほとんどなくなったが、気づくと欠かさず聞くラジオ番組がいつの間にか随分増えている。