連載・特集

2023.9.21 みすず野

 文学忌を頼みの綱にしてきた。題材が浮かばないとき(取り付く島もないと、お手上げだが)何とか話をつなぎ、きょうは○○忌―とやれば中身はともかく、形にはなる。作品や雅号にちなんでいたり、好きな花の名だったり◆「滂沱忌」と見聞きしただけで泣けてきそう。それもそのはず。塩尻市出身の出版人・古田晁の命日(10月30日)を思うと、涙が(視界がにじむ程度ではない)とめどなく流れ出る―古田が興した筑摩書房の社員の俳句からという。いかに慕われていたか。人柄がしのばれる◆この滂沱を宮澤賢治なら擬音・擬態語でどう表現しただろう。『賢治オノマトペの謎を解く』(大修館書店)を読んで想像した。「ぽろぽろ」だと足りないし、大泣きの「わあわあ」ともちょっと違う。童話「黄いろのトマト」に〈顔中ぐじゃぐじゃだ〉がある。もっとぴったりの語を造ったかもしれない◆『宮澤賢治歌集』(未知谷)によると、亡くなる前日の9月20日夜も病を押し、そうとは知らず訪れた農家の肥料相談にいつもの礼儀正しさで、きちんと座って応対した。没後90年。実りの季節に逝った。こちらも人柄がしのばれる。