2025.5.13 みすず野
手に入れた本に、知っている場所について書かれた文章があると徳をした気分になる。温泉紀行のような本を探していて買い求めた『ちょっとそこまで』(川本三郎著、講談社文庫)に、著者が諏訪市の映画館を訪れた記述があって、思わず引き込まれた◆「上諏訪の町には映画館が2軒あった」と書かれ、そのうちの1軒で「地方都市にしては珍しくオールナイトをやっていた」とある。ここは洋画を上映していた映画館で繁華街にあった◆この館で高校の同級生と授業が終わった土曜日の午後「エルビス・オン・ステージ」を見たことを思い出した。家が近かったが、一緒に映画を見に行ったのは初めてで、その後もなかったと思う。彼が誘ってくれたのかもしれない。館内は満席で、最後部で立って見た。プレスリーファンというわけではなかったが、ステージ完全復帰のドキュメンタリー映画で、当時話題になっていた◆数年前に地区の集まりで顔を合わせ「たまには飲もう」と誘われた。珍しいことをいうなあと思いながら快諾した。それから間もなく彼は亡くなった。ずっと一人暮らしだった。あの映画館は随分前に閉館している。