連載・特集

2023.9.19 みすず野

 かなり前だが、記事中の「書き入れ時」に読者から「間違ってるぞ!」と電話がきた。熊手で小判をかき入れるのではなく、取引を帳簿に書き入れる。辞書の多くが「忙しい時。もうかる時」という語意を載せている◆三省堂の新明解国語辞典に〈商店などで客からの注文が多く、もうけが見込まれる時間帯(時期)〉とあった。講談社の語源辞典が引く江戸時代の川柳〈旅迎へこれ書き入れの一つなり〉からは当時の風習を教わる。旅帰りの知人を近くの宿場に出迎え、歓迎のうたげを張っていた◆書き入れ時と聞くとき、そこにはどこか期待や奮い立つ気持ちも込められているようだ。昨日は―だったとはあまり言わない。大抵は今週末の連休は―だと力こぶしをつくる。農家や商売をやっておられる方にとって、秋深まるこれからは(物価高や燃料代など心配は尽きないとしても)まさに書き入れ時だろう◆冒頭の読者へは売り言葉に買い言葉で強く言い返してしまった悔いが残る。省みれば、なんとあやふやな知識を振りかざし、深く学びもせず書いたり言ったりしてきたことか。当方の書き入れ時が過ぎ去った今、恥じ入る次第だ。