連載・特集

2023.9.17みすず野

 出勤前、きょうはどの本を持って行こうかと考える。時間がある朝もないときも、あれこれ迷う。この間買ったばかりの小説にしようか、それともインターネットで注文して届いたこのノンフィクションにしようか、あるいはいつ買ったのか忘れてしまったが、ずっと気になっているこの評論集をバッグに入れようかと◆毎日同じことを思うが、では持って行った本を全て読むかというと、そんなことはない。仕事に使う本は付せんをベタベタ貼りながら読み、用がすむと机の上に置く。持ってきたけど読めなくて、でも、持ち帰ってもきょうは読む気にならないから置いていこうと机上に残す。そんな理由で机の上はL字形に本が積み上がった◆家を出るとき、本を手にするというのは、もし読むものがなくなったら、必要なのにこの本がなかったらどうしようという恐怖感からだと思っている。持ち歩いているバッグに収まらず別の布袋にも詰めて出勤する日は、仕事に行き詰まっていることが多い◆旅行などの前に本を選ぶのは楽しかったが、出勤前は一種の緊張感がある。そんな思いをして選んだ本ではあるが、その割には読めない。