連載・特集

2023.8.25 みすず野

 そばとカツオは初物の双璧だった。江戸っ子は新そばと聞くと、一分小判(1両の4分の1)を四文銭などに崩すため両替屋へすっ飛んでいったとか。笠井俊彌さん著『蕎麦―江戸の食文化』(岩波書店)に教わる◆話題に上げるには早過ぎないか?と思った読者もおられよう。それもそのはず、日本一早いとうたう松本市奈川地区の「夏の新そば」を食べに行ってきた。紙面で見てガソリン代も高騰の折と悩んだり、財布の千円札を数えたり...衝動が収まるのをしばらく待ったが、気が付けば西へとマイカーを走らせていた◆そば通でも江戸っ子でもないけれど、季節感の先取りはうれしい。うどん圏の西日本で育ったのに、すっかり今はそば好きに―随筆にそう書く著名人も多い。ざるを2枚。食堂の裏で釣り上げたというサクラマス(体長60センチ!)の魚拓を見ながら、手繰るそばは格別だった◆前掲書に戻る。尾張の俳人横井也有(1702~83)が木曽の風物をつづった俳文の中で―そばは〈名月前の走を賞す〉と。旧暦8月15日前の新そばを〈走り蕎麦〉と言った。也有は53歳で藩の重責を離れ、風雅人として自適の生活を送った。

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