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2023.8.20 みすず野

 職場の机上に、3冊のポケット図鑑がある。平成26(2014)年から28年にかけて発刊された新潮文庫。『野と里・山と海辺の花』『高山・亜高山の花』『日本の樹木』で、著者は小紙に何度も寄稿していただいた写真家・増村征夫さん。29年に他界された◆どの本も扉に筆文字で署名されている。発刊時にわざわざ小社へ届けてくださった。本当に穏やかな、優しい声で、本の説明をされた様子を昨日のことのように思い出す。増村さんが連載メンバーになっていたコラム欄を担当していて、何度も原稿を読ませていただいた◆お盆休みにこの図鑑で「ヤブラン」という花を知った。20センチほどの草丈で、里山の土手に紫色の花を付けて何本もまっすぐ立っていた。漢字だと「藪蘭」。花の図鑑は、片仮名表記とともに漢字表記の和名が記されている◆その理由を「花の色や葉の形をはじめ、咲く季節、香り、薬効など、その花の大まかなことが分かり、記憶しやすくなります」と説明している。3冊の図鑑は、1012種を収める。花と樹木の疑問は、まずこの文庫を開く。写真と文は増村さん。いまもどこかで、花に囲まれているのだろうな。

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