連載・特集

2023.8.19 みすず野

 戦争体験を語り継がなければならないと思いながら、最も身近にいた両親にすすんで体験を聞いたことがなかった。今になってもっとあれこれ、それこそ取材のように聞くべきだったと思う。ただ、特に若いころは親への反発もあり、そんなことは考えもしなかった◆あれこれ思い出そうと記憶をたどってみたら、出征先から故郷へあてた郵便物が、戦後40年ほどして旧役場の建物から見つかったことがよみがえった。はがきだったと思う◆駆け出しのころで、担当していたエリアではなかったので詳細を思い出せないが、遺族や当時健在だった差出人本人に返却することになった。そのうち、健在だった人を一人取材した。父のはがきもその中に1枚あった。本人が受け取ったが、そこに何が書かれていたのか、どこにあるのか不明のままだ◆召集されフィリピンで捕虜となった作家・大岡昇平は「戦争というのはいつでも、なかなかきそうな気はしないんですよね。人間は心情的には常に平和的なんだから。しかし国家は心情で動いているのではない(略)権力はいつも忍び足でやってくるんです」(『戦争』岩波現代文庫)と語っている。