連載・特集

2023.8.15 みすず野

 終戦の日というと例の「堪え難きを堪え...」の音声とともに、悲嘆の涙を流す人たちが映し出される。塩尻市立図書館に聞き取り体験談が掲示され、その中に「もう今からゆっくり眠れる」と安堵した―とあった◆歴史的な一日に、いつもと変わらぬ日常も。紀行作家の宮脇俊三は山形県の駅のホームで、普段通りに入線してきた列車やタブレットの受け渡しを見ている。あの放送を機関士と助役は聴かなかったのだろうか。松本に疎開していた作家・宇野浩二の小説の主人公(おそらく本人)は―新聞を読まず、ラジオも聴かないので―何が起こったかを知らなかった◆もう一つのパターンを『長崎原爆記―被爆医師の証言』(日本ブックエース)に教わる。放送を聴けなかった。そもそもラジオがなかった。ラジオどころか6日前の閃光で街も病院も薬品も...次々と負傷者が搬送され、精も根も尽き果てる。放送の内容を印刷物で読んだのは翌日の夕方だった。〈すべてを奪われて何かすっとした。これ以上なにも失うはずはない〉◆全く同じ体験と感情は二つとない。一人でも多くの証言に耳を傾け、字を目で追い、思いを致し続ける。