連載・特集

2023.8.13みすず野

 随筆家の武田百合子は、大正14(1925)年に生まれた。「さるすべりがゆらゆらと咲き始めると、私ぐらいの年齢の者には、敗戦の年の真夏が重なり合わさって思い出され、ふだんの暮しはぐうたらな癖に、八月の旧盆が過ぎるころまでは、何かにつけて正気に返るというか、気持がしんとなることが多い」(『あの頃』中央公論新社)◆同じ年に生まれた母は、戦時中、米のかさを増すために芋を混ぜるなどしていたが、日々食べるものがなくなっていく。畑の土手の草まで食べ尽くしてしまい、昆虫など口に入るものは何でも食べたと話した。戦争が終わっても、ただちに食糧事情が好転するわけではない◆太平洋戦争下の食をまとめた『戦下のレシピ』(岩波現代文庫)の著者・斎藤美奈子さんは「戦争になれば必ずまた同じことが起きる。戦争の影響で食糧がなくなるのではない。食糧がなくなることが戦争なのだ」と◆当時のような生活が「来る日も来る日も来る日も来る日も続くのは絶対に嫌だ! そうならないために政治や国家とどう向き合うかを、私たちは考えるべきなのです」と説く。戦争は終わった後も悲惨なのだと。