連載・特集

2023.7.9 みすず野

 夏の夕暮れ。縁側に座り、いい塩加減の枝豆をつまみ、庭の草花を眺めながら、よく冷えたビールを飲む。脇では豚の蚊やりから、蚊取り線香の煙がゆっくり流れ出る。これが理想だが、現実は厳しい。第一縁側がない。庭は草だらけ。なんとかなるのは枝豆とビールと蚊やりだけ◆作家の獅子文六は「夏がくると、うれしいというのは、遠い夢になってしまった。今の私にとって、暑気は最も耐え難く、若葉の爽かな色を見ても、やがて、めぐりくる炎暑の前触れと考え、恐怖感に襲われるのである」(『食味歳時記』中公文庫)と書いた。76歳で亡くなる前年に出版された親本に収められた◆「恐怖感」はともかく、暑気が最も耐え難いという思いは年々強くなる。「子供の頃は、夏がくると、うれしかった」(同書)というのは、多くの人の思いだろう。しかし、近年の夏は、あの頃の夏とは別の季節のようだ◆休日にのんびり田畑に出かけると、もう一仕事終えて帰る人ばかり。「日中の作業はだめだよ」と声をかけられる。それでも草刈りを始めると、大げさでなく、頭がくらくらしてきて慌てて撤退。朝夕以外は仕事にならない。

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