連載・特集

2023.7.24 みすず野

 漁期なのだろう。鮮魚売り場に生タコの刺し身があった。作家の立松和平さんに産地の兵庫県明石市を訪ねたルポ(『中部日本を歩く』勉誠出版)があり、〈海にすむもので人が最も親近感を抱くのは〉タコだ―と言い切っている◆蛸薬師をまつる寺がある。サイトに由来が載っていた。親孝行のお坊さんが母親の病を治したい一心で、タコを買う。僧侶なのにと責められ箱を開けると、タコの足が8巻のお経になったとか。薬師像を海に投げ入れると嵐が収まり、像がタコに乗って浮かんでいたとか◆雄が雌の入ったタコつぼを抱いて揚がってきたり、死ぬまで卵に新鮮な水を掛け続けたりと情け深い一方で、共食いをするから薄情でもある―とは立松さんが聞き込んだ漁師の話。明石焼きというのは―たこ焼きをだし汁に漬けて食べるだけだと思っていたら―玉子焼きとも呼ばれる全く別の料理らしい◆こうも知らなかったことが「目からうろこ」とばかりに次々と出てくるのは、眼病に効くとされる蛸薬師の御利益かも。〈健康食品〉だという。少し値が張るけれど、ひとつ奮発して「多幸」を「吸盤で吸い寄せ」なければなるまいか。