連載・特集

2023.7.19 みすず野

 『菅江真澄事典』が面白い。江戸時代の風俗が生き生きと描かれた著作から事項や人物を抽出し、五十音順に解説している。研究者の使い勝手は分からないが、当方は門外漢なので随意に拾い読めばいい◆真澄は天明3(1783)年~文政6(1823)年に信濃~越後~出羽~陸奥~蝦夷~出羽を遊歴した。1年余りを塩尻・本洗馬の釜井庵で過ごし、松本を訪れたのは天明4年。【し】に山辺の〈白糸の湯〉や〈清水の里〉の項が立つ。信州が舞台の随筆は読みかじっていたが、よその紀行も興味深い◆松前(北海道)の島は稲田がないため、濁り酒を売ることが禁じられていた。そこで家の障子に〈七里酒〉と書いて〈二里五里酒〉と読み解かせ―または看板の〈酒〉という字に濁点を打ち―客に知らせてこっそり売った。問いただしに来た役人が1杯、続けて3、4杯と飲み、ほろ酔いになって酒代も払わず帰って行く...まるで落語のようだ◆事典の編著者は民俗学者の稲雄次さん。真澄の墓碑は秋田市内にあり、側面に〈文政十二己丑七月十九日卒年七十六七〉と刻まれているとか。6年後の2029年に没後200年を迎える。