2023.7.13 みすず野
松本市街で望む王ケ鼻(2008メートル)の山容は、旧制松高生の目にも親しく映ったようだ。大正14(1925)年に卒業したフランス文学者の中島健蔵も〈残雪をつけて大きく空を限っている姿は、甚だ心を惹く〉と書き留めた(『作家の山旅』ヤマケイ文庫)◆「あの裏に広がる美ケ原で、牛が草をはんでいるんですよ」と観光客に教えたくなる。そう知って仰ぐから印象が際立つのかもしれない。市街を少し離れて例えば和田辺りからだと「鼻」だけでなく、最高点の王ケ頭(2034メートル)に立つテレビ塔と並ぶ眺めもいい◆今まで一方通行だった道路で東の王ケ鼻を正面に見る景色が珍しく、松本城のぐるりを車で3周した。広くなった外堀大通りである。旧開智学校へ向かう市道が「国宝が二つ見える通り」なら、この辺りから深田百名山は美ケ原も数え入れて幾つ指呼できるだろうか◆御嶽と乗鞍、中央アルプスを望む木曽の霊峰ライン。後立山の連なりが北へと延びる安曇野。穂高連峰がそそり立つ塩尻市の桔梗ケ原...山の上や高層建築からを除いて、人が住む集落や街で最多地点はどこかと思いを巡らせた。観光客に教えたい。