連載・特集

2023.07.16 みすず野

 竹で編んだ小ぶりのざるは、神社の参道の店先にぶら下がっているのを買った。一回り小さいざると2枚組で、驚くほど安かった。家庭菜園というほどでもない庭先の畑で取れる野菜を入れている。今年は手が回らず、育てた種類が少なくて張り合いが悪い◆それでも、キュウリ、ナス、ピーマン、シシトウ、ズッキーニが取れている。ざるに山盛りのようになると、何となく豊かな心持ちになるから不思議だ。塩尻支社の近所には、敷地内に見事な家庭菜園を作られているお宅があり、通る度に参考にさせてもらっている◆手元にあるのは、『午後三時にビールを 酒場作品集』という中公文庫の新刊。吉田健一、大岡昇平、太宰治、開高健、坂口安吾ら26人の酒場を舞台にしたエッセーと短編のアンソロジーだ。「午後の三時。広漠とした広間の中で、私はひとり麦酒を飲んでた」(萩原朔太郎「虚無の歌」)、「のまぬくらいなら、蕎麦やへは入らぬ」(池波正太郎「藪二店」)という文字が目に入る◆ざるのキュウリの緑色が輝いている。もろきゅうという言葉が頭をかすめる。夕暮れまで少し早いけれど、そろそろ始めましょうか―。