連載・特集

2023.6.28みすず野

 尾崎士郎の『人生劇場』を今どき読む人は少ないだろう。若いころ夢中になった。当時見た映画は主人公の青成瓢吉が永島敏行、女性陣は松坂慶子や森下愛子...だった。青成の演説〈学生注目!〉に憧れた◆青びょうたんの瓢。季語では〈ふくべ〉と読むらしい。〈青瓢人は見かけで九分決まる〉鈴鹿呂仁。俳誌『岳』主宰の宮坂静生さん=松本市=から恵送いただいた近著の中に、この句を見つけ―本来の味わい方ではないが―懐かしい連想にふけった。書名はずっしりと『俳句鑑賞1200句を楽しむ』平凡社◆〈俳句の面白さは、謎解きにある〉―なるほど、なぜ青瓢なのか分からない。人が見かけで決まるというのもいただけない。宮坂主宰は、ことばを使う人間は見かけの働きである〈表情〉が重視されるとし、見かけが大事だといっても〈私はまだ〉...の自戒の句と解く。十七音文学の豊かさや奥深さを思う◆巡り来る季節も人ごとに一年だって同じものはないし、主宰も序文で言うようにコロナや戦争・災害への不安が日常を脅かす。もとより当方に句を作る才はないけれど一日3~4句ずつ味わえば、たっぷり1年楽しめる。