2023.6.27 みすず野
人とキツネ(狐)がいかに近しい間柄だったか。『信州の民話伝説集成』(一草舎出版)中信編を繰り、あらためて思った。編著者は12年前に亡くなった塩尻市生まれの児童文学作家・はまみつをさんである◆安曇野のお寺に老狐がすんでいた。狐だから人を化かした。でも、地元の下鳥羽の人に限っては化かすことをしなかった。住民みんなの名前を知っているほど親しかった。老人がある日いたずら心で老狐を懲らしめたところ、いらい下鳥羽の人たちも化かされるようになる。老人はすっかりしょげ返った◆朝日村の女狐お夏は、松本平を取り仕切った狐の大親分・桔梗ケ原の玄蕃之丞と恋におち、とうとう婚礼まで挙げた。ところが山形村のお話ではこのお夏―仲の良い狐の伝十郎と清十郎に思いを寄せられ「私を捜し当ててくれた方と一緒になります」と言い、山奥へ駆け込んでしまう。いじらしい狐もいた◆筑北村の奇祭「狐の嫁入り」が担い手不足で再開は厳しい―と1カ月ほど前の紙面にあった。苦渋と断腸の決断であり、同様の悩みを抱える地域もあろう。外野があれこれ言えないけれど、狐との縁が途切れるのは寂しい。