連載・特集

2023.6.2みすず野

 髪をそっているが、僧侶ではない。武家に仕えて茶の湯の事をつかさどった(広辞苑)―茶坊主。数寄屋坊主。お茶壺道中に同行したから、京に詳しい。江戸中期の奇談集『耳袋』が〈御数寄屋の者語りけるに〉と書き起こす◆徳川家御用の宇治茶を壺に詰め、江戸へ毎年運んだ。道中のことは耳袋より少し年代が下る随筆集『甲子夜話』にも見える。ネタ元はやはり数寄屋だ。新茶のほうがおいしそうなものだが、傷まないよう涼しい所で夏を越させる。茶壺の保管地は京都~甲州~江戸城と移った。下りの経路が木曽路となったのは第4代家綱の治世◆聞き取り回顧録の『幕末百話』で、語り手は「宰領」とあるから行列の人馬を管理・監督した人か。国境で城主や家老が出迎え、ごちそうを振る舞われたうえに土産までくれる。鼻薬(賄賂)を効かせる大名がいたり、宿で威張っていられたり―〈あの夢は二度と再び見られません〉◆「茶坊主め!」と今日いいイメージが湧かないが、百話に―〈見識の高い〉人もいて〈悪者ばかり〉でなかった―との"証言"も。あす奈良井の宿場を練る時代行列の中に数寄屋や宰領もいるだろうか。