連載・特集

2023.5.18 みすず野

 カッコウ、カッコウと鳴いた。今年の"初鳴き"は浅間温泉だった。新緑の山に響くこだまのような声は初夏の楽しみだが、小欄はネタ切れで悩む。毎年セロ弾きのゴーシュと柳田國男と「♪静かな湖畔」というわけにもいかない◆手元の歳時記『基本季語五〇〇選』には〈郭公〉も〈閑古鳥〉も載っていない。困っていると好きな句を思い出した。山頭火の〈あるけばかつこういそげばかつこう〉は信濃路での作。リズムもいい。思わず口をつく。鳴き声がそのまま名になった鳥なんて、他にもいるのだろうか◆佐藤春夫の全集(臨川書店)第11巻に「郭公はなぜ鳴くか」という童話がある。子供の鳥が飛んでいて落とした片方のげたを探しているという。ひもで結びなさいと両親が言うのを聞かなかった。作者は〈自分の心を後悔して鳴いて〉いるのであろうと考える。ちょっと説教っぽい◆ずっと信号機の音声だと勘違いしていた―と以前に書いたが、その逆の話が串田孫一の小品「贋郭公」にあった。停車中の普通列車の中でカッコウの声を聞いていたら、待ち合わせの急行到着を告げるアナウンスに切り替わった―録音だったのだ。

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