連載・特集

2023.5.17みすず野

 意外と都会なんだな。初めて広島を訪れた時、バスガイドが「100メートル道路」と呼ぶ片側4車線を見て、そう思った。続く一言に自分の愚かさを知らされる。「広い道を造れたのは原爆で焼け野原になったから」◆広島生まれの作家・詩人の原民喜(1905~51)は爆心地から1.2キロの生家で被爆。ノンフィクション作家の梯久美子さんが著した原の伝記(岩波新書)によると翌日、手帳に〈河岸ニハ爆風ニテ重傷セル人、河ニ浸リテ死セル人、惨タル風景ナリ〉と記す。小説『夏の花』はこのメモを基に書かれた◆原爆がテーマの文学といえば井伏鱒二の『黒い雨』を挙げる読者も多いだろう。地獄図が描かれる。「水をくれ、水をくれ」と叫びながら...灰か何かがたまった赤ん坊の目に息を吹きかける女。人波のなか、顔も腕も血だらけの女を抱きかかえ〈引きずるようにして連れて行く中老の男〉◆G7広島サミットがあさって始まる。市内を流れる川は首脳たちの目と心にどう映るだろうか。さまざまな考えや課題があることは承知しているが、どうしても書かずにいられない。願いは慰霊の献花よりも、核兵器廃絶への一歩だ。