連載・特集

2023.5.12みすず野

 爽やかな5月は外で本を読むのにいい季節だと、図書館で誘われた。司書の趣向だろう。その名も『五月の読書』は、4年前に88歳で亡くなった文芸評論家・高橋英夫さんのエッセー集。早速コーヒーチェーン店の屋外席に持ち込む◆作家の尾崎一雄は師と仰ぐ志賀直哉の全集を2組―〈線を引いたりもする読書用〉と〈保存用〉―そろえていた...辻邦生が立教大学の正門前で信号待ち。そばにはいつも〈ファンの女子学生〉が...父親が古書店で買ってきた頼山陽の著書を〈高杉晋作が持っていた〉と言った...面白かった◆他に数冊借りてきた。竹西寛子さんは古典に造詣が深い小説家とあって、京都や奈良へといざなってくれる。清少納言が〈四月、祭の頃、いとをかし〉と書き残した葵祭は3日後の15日。都大路を平安装束の行列が彩る「路頭の儀」も4年ぶりに催されるという。一度見てみたい◆夏は暑い、秋は食欲もスポーツも...外で読むなら今かもしれない。竹西さんが、新聞もよく使う言葉「心のケア」に眉をひそめていた。〈人間にとっての大事を外来語に頼らなければならないほど日本語は不自由であるのか〉―一言もない。