「森のおうち」酒井館長退任へ 安曇野の絵本美術館 後任は長女原田さん

安曇野市穂高有明の絵本美術館「森のおうち」の酒井倫子館長(84)が、開館記念日に当たる29日付で退任し、名誉館長に就く。平成6(1994)年の開館以来、運営を共に担ってきた長女・原田朋子さん(57)が新館長に就任する。新型コロナウイルス禍で事業環境が一変する中、絵本文化継承へ、運営体制の若返りを図る。
カフェやショップ、図書室を備えた同美術館にコテージを併設し、宿泊、ウエディング事業を手掛ける運営会社・森のおうちについては、酒井館長が引き続き代表権を持つ。原田さんは新たに取締役に就く。
来館者数が年1万人減少し、不特定多数から少額出資を募るクラウドファンディングで経営支援を訴えたのは昨春。目標額800万円を上回る運営資金を調達した。原田さんは「支援に対する最大の恩返しは館の永続」、酒井館長は「気力、体力が充実している中での交代が望ましく、再起へ支援を得た今がその好機」と判断した。
同館は、絵本表現の芸術性を伝える国内外の原画作品の展示を強みとしてきた。年4~5回の企画展で人気作家の組み入れを強化する。酒井館長が語り手としても実績を重ねてきた「朗読教室」「宮沢賢治教室」の2講座、館長主宰「森のおうちおはなしの会」の同好会活動を継続して担うのに加え、米山裕美学芸員による講座「子育て絵本サロン」を新設し、ファン層拡大を図る。
一方、収益の柱だったウエディング事業は、人前式・パーティー様式から、屋外で式に代わる記念撮影をする「ロケーションフォト」へ移行するなど「コロナ前の社会には戻らない前提で、時代の価値観に即し事業を再構築する」(原田さん)。
29日は、画家で絵本作家いせひでこさんら館運営を支えた文化人を迎え、シンポジウムを催す。原田さんは「開館以来紡がれた信頼の根、創造性や夢、生きる力を育む絵本文化を絶やさない」と就任あいさつに臨む。戦中戦後の貧困下、宮沢賢治ら児童文学の世界を知った経験を開館の原点とする酒井館長は「新生森のおうちに期待してほしい」と話す。