連載・特集

2023.4.30 みすず野

 飼い猫は20歳になる。目がほとんど見えなくなり、歩行もぎこちない。食が細くなって体は骨と皮だが階段を上って2階へ上がり、決まった場所で寝る。気に入らないとどこから出るのかと思うような大声で鳴く◆週2回、動物病院で注射をしてもらっている。犬や猫がいつも順番を待っている。世間にはこんなにたくさんの犬と猫がいて、それと暮らす人たちがこんなにいるのだとその度に実感する。どんな種類であろうと、大きかろうが小さかろうがかけがえのない動物なのだ◆直木賞作家の神吉拓郎さんのエッセー「犬と猫」(『男性諸君』文春文庫)に、義兄の家の庭先にいつも来る近所の黒犬の話がある。老衰でよたよたして、左目がつぶれている。終日寝そべって、家の中を見つめている◆「『爺ィどうし仲よくやるんだ』」とよくいっていた義兄は、冬の朝、急死する。「出棺のとき、霊柩車が動きはじめると、見送りの人のなかから、犬がとび出して、恐ろしい勢で車のあとを追った。(略)よたよたの黒犬である」。「爺ィ」に近くなるとこうした話はこたえる。子供の頃から共にいた動物の姿を、1匹ずつ思い出す。