連載・特集

2023.4.13みすず野

 フーテンの寅さんを筆まめにしたような―学があり、絵も描けて和歌をたしなむ―男が今から240年前、本洗馬(現・塩尻市)の里にやってきた。後に菅江真澄と名乗る。1カ所にじっとしていられない性分だ◆牛伏寺に参ったり姨捨山で仲間と月見をしたり...松本近郊の砂田(沙田)神社で〈七とせにひとたび〉の御柱神事を見ている。紅の手拭いを鉢巻きにし、振る〈さいはひ〉はおんべか。17メートル余りの柱に4本の綱を付け、身に汗して押し立てていく。安全な場所へ避難する見物人の様子までも日記につづった◆さて―当地は御柱イヤー。準備は1~2年前、いや前回の御柱祭が終わると同時に始まっていたのだろう。この大型連休中は氏子衆の熱気を伝えるのに紙面も忙しい。沙田神社の祭りは23日が「山出し」で、波田から島立まで終日かけて4本の御柱を曳く。一般参加もできると記事にあった。古来の習わしと息遣いに触れられる機会となろう◆真澄にとって本洗馬で過ごした1年余りはその後の遊歴と、各地の伝承や習俗を記録し続ける仕事の始まりだった。今すぐ腹の足しにはならないけれど、この地の人と文化を思う。