2023.4.12みすず野
こんな長者が太宰治の「新釈諸国噺」に出てくる。高価な初物のナスを一つ2文、二つで3文と売りに来た。皆が二つと言うところ一つ求め、少し待ってから1文で出盛りをたくさん買う。一つだろうが三つ食おうが〈75日の長生き〉は変わらない。なるほど蔵が建つ◆初物を食べるときは東を向いて笑う―と思っていたら、ネットで「西の地方もある」と読んで驚いた。東は日の出の方角だとか、上方の人が江戸よりも早い時期に食べられるのを自慢したとか。片や西は西方浄土とも、逆に上方への対抗意識とも◆タケノコの煮物が食卓に上った。春の香りと柔らかな歯触りを楽しめるのはうれしいが―初物というよりか―わが家ではサクランボも桃も、キノコもサンマも年に1度しか出ない。どうやら「ナス二つ」の口らしい。どうりで蔵が建たないわけだ◆西方浄土といえば―極楽にも9種(上上から上中...下下まで)の段階を説く九品往生の教えがある。京都大原の三千院で、家人と「せいぜい中の下だな」とか「あなたこそ悪い事ばかりしているから、きっと下の中か下の下よ」―醜い言い争いを阿弥陀様は黙って聞いておられた。