連載・特集

2023.3.12 みすず野

 同業他社を退職した数人と、年に2、3回集まって杯を傾ける集まりを何年か続けていたが、コロナ禍で3年間、誰とも会わないままだ。メンバーは全員年上で、そのためかコロナへの対応は細心の注意を払っていて、感染が伝えられてすぐ集まりは中止になった◆ドイツ文学者・池内紀さんの『今夜もひとり居酒屋』(中公新書)には、横手の仕切りののれんに「他座献酬」「大声歌唱」「席外問答」「乱酔暴論」と、くせの悪い客をたしなめる四文字四戒が染め付けられた店が紹介されている◆別の店では3月と9月、帰りがけに店の人全員にあいさつした客にかわり、連れが名刺を出す。転勤の辞令が出たのだ。「居酒屋は人生の夜学であって、たのしく酔いながら、いわず語らずのうちにさまざまな勉強のできるところだ。その校門を出ていくとき、けたたましいベルが鳴ったりしない。もっと風雅であって、夜風がきちんと時間の推移をおしえてくれる」◆そろそろ「人生の夜学」への招集がかかってもいいころ。「今年こそ」と書かれていた年賀状もあった。会場はもちろんいつもの居酒屋で。菜の花のおひたしが待っている。