連載・特集

2023.03.27みすず野

 中野幹久さんの訃報に言葉を失う。今年の年賀状も筆圧に少し弱さこそ感じられたが、これからも変わらず指導してもらえることを疑わせるものではなかったから。夜道で突然、手元の明かりが消えたような喪失感である◆はがきをたびたび頂いた。当方の拙文を「流れるよう」と過分に持ち上げたり、うまく書けないと悩みを書き送ると「六分七分の力で」と励ましたり。「文学散歩」で郷土作家の椿八郎を取り上げたところ、東京での出版祝賀会の思い出をつづってくださったのが最後になった◆会社におられる時分は喫煙室でよく居合わせた。ピース缶を手放さず「国内外の出来事も、この地に引き寄せて書かなければならないのが難しい」と話す口ぶりが懐かしい。もちろん当時の当方には馬耳東風、馬の耳に念仏...筆力は遠くはるか及ばなくても書く立場になって初めて、その苦しさの一端がちょっとだけ分かる◆作家井上ひさしの言葉という「むずかしいことをやさしく」も座右に置かれた。肝に銘じたい。小紙が創刊いらい掲げる「郷土の応援団」の看板を背負い、その思いを筆に乗せ続けた「みすず野」7000余編だった。

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