連載・特集

2023.2.26 みすず野

 食事に行って、座敷や小上がりへ通され、そこの座卓を見るのが楽しみだ。老舗の店には使い込まれた座卓があって、その歴史を伝えるような光り方に引きつけられる。新しい卓は扱う店に行けば手に入るが、年季の入ったものを手に入れるのは難しいし、おそらく値段も張る◆詩人の諏訪優さんは、この座卓を手に入れる。地元のうなぎ屋の小座敷で「先々代あたりから使われていたシンプルな一枚板のテーブルである」(『東京風人日記』廣済堂出版)。90センチ×45センチの大きさで、「このテーブルを囲んで四人が鰻重を食べたこともある」と◆卓は脚を折りたためる。「机の表面は何年も鰻の脂や酒を吸ってほどよく光っている」という。申し分ない。店を新築すると知り、お願いしてもらえることになった。「この机の上で原稿を書いたり酒が飲めたら言うことなしだ」。机の上には、万年筆などの筆記具が入った筆立てと湯飲み。湯飲みは少年時代から使い続けていたそうだ◆座卓は独特の雰囲気があって憧れる。長時間座っているのは疲れるだろうがそんな機会はめったになさそう。あぐらをかいて座るので、何より猫が喜びそうだ。