連載・特集

2025.3.22 みすず野

 進学や就職で、家族のもとから今春、初めて離れて暮らす若者たち。期待に胸を膨らませ、不安もちょっぴり抱えて、新生活を夢に描いていることだろう。きょう、明日あたり、引っ越し作業をする家庭も多いのでは◆荷造りをしていて、わが子の成長をうれしく感じる。一方で、ちょっと寂しいのも親としての偽らざる思いではないだろうか。門出なんだから祝ってやらないと、と思いつつ「ずっと一緒に暮らしてきたからなあ」と、ぽつりとつぶやく。すると、幼少のころの子供の姿がまぶたの裏に映し出される。顧みると、寂しさが大きいのは子供より親の方かもしれない◆小林一茶は「其夜から雨に逢ひけり巣立鳥」とひねった。出ばなをくじかれると、その後まで影響しかねない。巣立った後はしばらく慎重に目を配ってあげたい。過保護かもしれないけれど◆池田町に住んだ野鳥研究家の故・田中宏一郎さんは著書のツバメの欄で巣立ち後の幼鳥について「集団をつくり葦原をねぐらにして眠り、夜明けと同時に活動を開始する」と記している。巣立ち後、新しいコミュニティーになじんで元気に生活してくれることを切に願う。