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交通安全みんなの願い まつもと道路交通考・第1部③事故が目立つ松本地域

 交差点で車が強引に右折する「松本走り」の危険性が指摘される松本地域では、人も車も交通事故防止への意識を一層高める必要がある。最悪の場合は死傷者が出ることもある交通事故は、全ての関係者を不幸に陥れる。加害者になれば刑事責任を問われたり、損害賠償の義務を負ったりもする。交通事故を1件でも減らす取り組みが欠かせない。

 県警のまとめによると、令和5年の人口1万人当たりの交通事故死傷者数は松本市が38.9人で県内19市の中で2位、安曇野市が38.6人で3位だった。19市の平均は30.7人で、両市の事故率の高さがうかがえる。警察署別でも、管内人口の違いがあり単純比較はできないが、松本署管内(松本市と山形村)の事故件数(804件)と負傷者数(946人)はともに県内1位だった。その状況は最近ずっと続いている。
 全国的に、交通事故の件数と死者数は21世紀に入ってから大幅な減少基調となっている。県内でも昭和47(1972)年に337人、平成元(1989)年に207人を数えた死者数が令和5年には42人に減った。警察や各自治体の地道な交通安全施策が実を結んできたほか、飲酒運転や「あおり運転」の厳罰化といった政策対応も効果を生んでいるとされる。最近では衝突被害軽減(自動)ブレーキを装着する車が増えたことも事故の抑制要因となっている。
 とはいえ、悲惨な事故は後を絶たない。マイカーに頼って暮らす人が大多数の「クルマ社会」で、事故率も高い松本地域では特に交通安全推進の手を緩めることはできない。
 交通事故の原因は、乱暴な運転や不注意といった人的な要素が大半とされるが、道路環境によって事故が誘発されるケースも報告されている。松本市交通部自転車推進課の武井厚志課長は「松本市は道が狭く、高齢者の出合い頭事故が多い」と指摘し、城下町特有の見通しの悪い道路環境が事故率の高さに関係していると分析する。
 令和5年の人口1万人当たり事故死傷者統計に戻ると、1位が諏訪市の40.2人、4位が岡谷市の38.0人となっており、道路整備の遅れが指摘される松本・諏訪地域が上位を占めた。一方、飯田市は25.3人、佐久市は24.8人と19市平均を下回ったが、両市は主要国道が4車線で、県内では道路網が充実しているとされる。松本地域でも塩尻市は26.3人と少ないが、同市北部の国道19号も松本市境まで3キロ近くが4車線化済みだ。道路環境の改善が事故抑制につながる可能性を示しているとは言えないだろうか。
 安曇野市市民生活部地域づくり課の保科幸課長は「車がないと生活できないので、運転中の高齢者が事故を起こすケースが多い」と危機感を強め、高齢者の交通安全意識や運転技術を高める必要性を指摘している。
 地域全体で交通事故を減らそうという意識を共有し、歩道の整備や交差点の改良といった道路環境の改善も地道に続けていくことが求められる。