「松本走り」なくしていこう まつもと道路交通考・第1部②危険な「ご当地ルール」
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松本地域は日常生活をマイカー移動に頼る人が大多数の「クルマ社会」で、交通事故の発生率も高い。まず急がなければならないのは危険な「松本走り」の根絶で、それは松本という地名の「汚名返上」にもつながる。
松本市は「広報まつもと」平成31(2019)年3月号で「松本走り」を特集した。交差点での「松本走り」の例示として「対向車がいるのに強引に右折」「左折する対向車にかぶせるように右折」「信号が赤から青に変わると同時に内回り(直線的)に右折」などを挙げている。これらは全て道路交通法(道交法)違反だ。
交差点で車が右折する際には、対向の直進車や左折車の進行を妨害してはならない(道交法第37条)。さらに、右折車は交差点の中心の直近の内側を徐行する必要がある(道交法第34条)。右折車は慎重に交差点に進入し、交差点の中心付近を通る「大回り」ルートでゆっくりと通行すべきことが道交法に明記されている。
これに反して、「松本走り」では強引に、急いで直線的に右折するケースが多い。速度が出過ぎて安全確認がおろそかになりやすく、車同士の事故につながりかねない。右折する先の横断歩道に歩行者がいる場合は重大な人身事故のリスクも高まる。事故にならなくても、歩行者からすれば右折車=鉄の塊がスピードを落とさず目の前や背後を通過するのは恐怖でしかない。
「松本走り」は、松本地域の道路の狭さに起因するとの指摘が強い。かつて松本地域には右折レーンのない交差点が大半で、車が右折待ちをすると後続の車が渋滞することが多かった。右折待ちのドライバーは渋滞する後続車に気兼ねして、対向車が左折するのに乗じて強引に右折することを余儀なくされた。後続車の中にはパッシング等で「早く行け」と右折待ちの車に「松本走り」を促すケースもあった。渋滞原因となっている右折待ちの車に道を譲る対向車も多く、こうした道路事情によって右折車が大きな顔をする松本地域独特の誤った運転マナーが広がっていったという分析だ。
もちろん、全国どの地域にも強引な右折をする乱暴なドライバーはいる。松本地域で問題なのは、地元独特の運転環境に慣れた善良なドライバーが悪気なく無意識にルール違反の「松本走り」をしているケースがあることだ。日本自動車ジャーナリスト協会の菰田潔会長は「『ご当地ルール』は地域外の人には通用しない」と危険性を指摘する。
最近は道路環境の改善で「松本走り」は以前より減ってきたとの見方もある。ただ、「松本走り」という言葉は健在で、ルール違反は一部で根強く残っている。地域を挙げて問題点を正しく共有し、交通安全を進めていく取り組みが求められている。