事故や渋滞を減らしたい まつもと道路交通考・プロローグ
国道19号は延々と続く渋滞で、クルマはなかなか前に進まない。東西方向の幹線道路も19号との交差点を先頭に長い車列ができる。先を急ぐ車が狭い生活道路に入り込み、歩行者の脇をすり抜けていく。右折レーンがなく、渋滞の原因となる交差点も多い―。平日の朝夕に松本市街地で見られる、おなじみの光景だ。
私たちの郷土である松本平は歴史と文化に彩られ、豊かな自然にも囲まれた魅力いっぱいの地域だ。「日本の都市特性評価」(森記念財団都市戦略研究所)によると、松本市は全国主要136都市の中で令和5年は総合8位、昨年も同12位と高く評価されている。隣接の安曇野市や塩尻市も含め、都市部からの移住先としても人気がある。
この素晴らしい郷土で、しばしば指摘されるマイナス面が道路整備の遅れであり、車の運転マナーだ。
「松本走り」という言葉がある。松本地域でよく見られる車の運転方法から生まれた言葉で、主に交差点で強引に右折する危険なルール違反のことを指す。「松本走り」を巡っては、日本自動車連盟(JAF)の広報誌が平成20(2008)年4月号で危険な運転の事例として紹介し、松本市も「広報まつもと」平成31年3月号で危険性を訴えた。
危険運転の「ご当地ルール」は全国各地に存在するが、残念ながら「松本走り」は"知名度"が高く、各種メディアで取り上げられることも多い。最近では令和元年5月に大津市で保育園児16人が死傷した交差点での右折車と直進車との衝突事故に関連して「松本走り」がさかんに報道された。
もちろん、松本地域のドライバーの大半は思いやりのある善良な人たちだ。JAFの令和6年調査では、信号機のない横断歩道で歩行者のために停止する車の比率は長野県が87.0%で全国平均の53.0%を大きく上回り、都道府県別で9年連続1位となった。それなのに、郷土の地域名が「松本走り」としてマイナスイメージで語られるのは悲しい。
「松本走り」が生まれた背景には、松本市街地の道路の狭さがあるとされる。実際、松本地域の道路網は郊外も含めて貧弱で、道路整備が遅れているとの指摘は強い。
23万人余の人口を擁する中核市・松本の動脈である国道19号は、市内全てが片側1車線だ。部分的に4車線(片側2車線)化の拡幅工事が進められているが、事業延長はわずか1.6キロで、それすら完成時期は未定だ。本格的なバイパス道路もなく、河川沿いの堤防道路や、歩道のない生活道路に車が流入する。高規格幹線道路の中部縦貫道(松本市―福井市)整備も福井県や岐阜県に比べて大きく遅れている。
県警のまとめでは、令和5年の松本市の人口1万人当たりの交通事故死傷者数は38.9人で、県内19市中2位、安曇野市は38.6人で3位だった。19市平均は30.7人で、両市の交通事故率の高さが目立つ。その背景に道路網の貧弱さや、それに伴う危険な運転方法=「松本走り」がないのか検証する必要があるだろう。