連載・特集

2024.12.4 みすず野

 常念岳が雪を頂き、北側に続く山々も白く輝く。日中、温暖な日が続いていても紛れもない冬の訪れ。雪の山を見て毎年思い出すのは、高校の授業で習った中唐の大詩人・白居易(白楽天)の七言律詩にある「遺愛寺の鐘は枕を欹てて聴き/香炉峰の雪は簾を撥げて看る」◆「遺愛寺で鳴らす鐘の音は、枕に横たわったまま寛いで聴き、香炉峰にのこる春雪は、簾を撥きあげて気ままに看る」(『中国名詩集』松浦友久著、ちくま学芸文庫)。季節は異なるが口をついて出る◆白居易は江州(江西省)に左遷されたが、香炉峰の麓に草堂を建てその喜びを歌にした。「反骨の反面、そのあざなのとおり、根が楽天的な白楽天は左遷もなんのその」「愛妻とともにのんびり地方暮らしを楽しみながら、詩作に励んだ。この詩句はそんな生活の情景を鮮やかに浮き彫りにする」(『中国名言集』井波律子著、岩波書店)という◆人の一生で失意や挫折は避けられないが、白居易の詩は、陶淵明の詩とともに穏やかな安らぎを与えてくれるものであったと松浦さんは説く。しかも、大言壮語ではなく。くよくよするなと背中をそっと押してくれるような。