連載・特集

2024.12.18 みすず野

 イギリス紳士というと、高価なスーツをすきなく着こなしているイメージがある。だが、日常の服装は地味で流行など超越したスーツを十年一日のごとく着ていると『イギリス紳士のユーモア』(小林章夫著、講談社学術文庫)にある◆長い間着続けられる服は、それだけ丈夫だということだ。「イギリス製品については、ドイツ同様、丈夫で長持ちが昔からの定評だった」といい、近ごろは大量生産の弊害もあるが、そこそこの値段のものは丈夫だという◆気に入ったものを長く愛用するというのは、一面、けちの精神の表れでもあるだろうが、同じけちでも「飲み屋の勘定のときに決まってトイレへ行くケチとは質を異にするのである」ということだ。言い換えると合理的。イギリス紳士が愛用するツイードのジャケットは「着れば着るほど味わいが出てくる」と◆1着だけ持っているが国産で買ったのは20年以上前。傷みも出てきた。でも捨てられない。紳士は古い服を着ていても「着こなしよく見え、群を抜いて光って見える」というが、これくらい難しいことはない。高価な服を着るのは簡単だが、この着こなしは年季が必要だと。