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人生の「最終章」は松本で ワシントン大名誉教授が自伝

自室で取材に応じる大内さん

 米国ワシントン大学の名誉教授で工学博士の大内二三夫さん(75)が松本市に移り住んで2年がたつ。25年を一区切りと捉えてきた人生の"最終章"を新天地で暮らそうと、50年近く過ごした米国を後にして縁もゆかりも無かった松本に居を構えた。人生の準備期間を経て挑戦と発展へ、これまで歩んできた濃密な半生を振り返り、若い世代にエールを送る自伝『人生の四楽章、そして松本へ』(鳥影社)を今月出版した。

 経歴は異色に富む。上智大学と同大学院で学んだ後、社会人経験を経て米フロリダ大工学部に留学。その後、同国のデュポン中央研究所に勤務し、1992年から31年間、物質材料工学の専門家としてワシントン大学に籍を置いた。目先の小さな目標ではなく、可能性を限定しない「vagueなidea(漠然とした考えや理想)」を抱き続け「それらを具体化していく時間だった」と話す。
 この間に米国籍を取得したが、ワシントン大退官を機に母国への移住を計画。夫婦共に出身は東京だが、自然や歴史、文化の豊かさや医療機関の充実といった観点から松本を選んだ。新型コロナウイルス禍の入国制限下、土地探しや家の設計はインターネットを駆使し、松本城の徒歩圏内に自宅を新築。一昨年秋に暮らし始め、現在は市内中山の職人・井筒信一氏の下でバイオリン作りに励むなど松本暮らしを満喫する。
 『人生の四楽章―』は今年2月、足を骨折して"捻出"された時間の活用として書き始めた。自身の歩みを言葉に表す過程は「人生の再発見」だったという。蓄積された過去が明瞭な輪郭を帯びる中で「将来を担う若者たちに役立つような内容を」と構想し、これまでの経験を4楽章(4章立て)にまとめた。両国の実情を知る立場から、大学を社会に還元するための提言にはとりわけ注力。「英知が結集した大学はエコノミー(経済)のエンジン。松本でも街の誇りであり象徴であるべき大学が中心となり、行政や企業とも連携してイノベーションを起こしていけるよう経験を伝えていきたい」と話している。書籍は222ページ、1600円。