連載・特集

2024.11.6 みすず野

 「十一月という月が好きになる理由は、何もないけれど、十一月に入ると無性に嬉しくなることがある。セーターが着られることだ」と俳優の池部良さんはエッセー集『風吹き鴉』(毎日新聞社)に書いた◆通う中学校に米国人の少年がいて「自由で、明るく、自分の生活や個性を楽しんでいるかに見えるセーター姿には、すっかり憧れてしまった」ことがセーターへの思いを募らせたという。この少年はのちのライシャワー駐日大使だったと思われると◆昭和30(1955)年、ベルリン映画祭に出席。パリに遊び、持ち金をはたいてセーターを30着買い、船便で送った。今でも虫に食われずに残っていて愛用していると記す。「十一月に入ると、余程、フォーマルなときでない限り、外出にはセーターを着る。セーターが着られる十一月は楽しい」◆セーター好きとしては、何ともうれしい1編。クルーネック(丸首)が好み。物持ちはいいほうで、長く着ている衣服はあるが、セーターはどうしても虫にやられる。防虫剤は使っているのだけれど。近年の問題は、体形がそのまま現れることだ。腹回りが豊かな曲線を描いてしまうのだ。