連載・特集

2024.11.5 みすず野

 セルフレジの普及に象徴されるような、対人でのやりとりがだんだんなくなっていく。人件費の削減が目的なのだろうが、何か味気ない。できるだけ人との関わりをなくそうとしているかのようだ◆持病があるので、同じ病院に十数年通っている。年に数回の受診だが、なんとなく陰気になる検査を除くと楽しいこともある。患者は圧倒的に高齢者が占めていて、周囲は人生の大先輩ばかり◆この間は血液検査があった。順番を待っていると、男性のお年寄りの元気な声が聞こえてきた。生年月日と氏名、年齢を聞かれ「92歳だよ」と大きな声で答えている。担当者が「血液を3本採ります」というと「もうそんなにねえよ、俺92歳だよ」。吹き出しそうになったが、採血する女性はにこりともしない。こんなやりとりはいつものことなのだろう。全てが終わり5分間は動かずここにいるよう言われている。時計を見ながら「1分は長いなあ」とつぶやいていた◆院内を元気に歩き、なんだかんだと話している。子どものころからまわりには、機知に富んだ大人のやりとりがあふれていた。92歳のお年寄りはちょっぴり粋であか抜けて見えた。